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A Summer Story [映画]

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先日随分久しぶりにゴールズワージー の『林檎の樹』を読んだわけですが、その後昔読んだ旧訳も読みました。

新訳の方が読みやすいですが、旧約の方が詩的な雰囲気は優っています。

しかしながら今となっては少し文章が古いと思ってしまうところもあります。




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原文はどうなのか気になったので対訳を探しましたら今は出版されていないようで、一冊だけ古いものが見つかりました。




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少しだけ同じ部分を引用してみます。

 

法村訳(新訳)

P48-

アシャーストは衝動に駆られて彼女を両腕に抱き、その身を引き寄せて額にキスをした。

And, yielding to a swift impulse, he put his arms round her, pressed het to him, and kissed her forehead. 

 

そして、彼は怯えた。真っ青になったミーガンが目を閉じている。

Then he was frightened―she went so pale, closing her eyes, 

 

青ざめた頬にかかっている長くて黒い睫毛と、だらりと脇におろした両腕。

so that the long, dark lashes lay on her pale cheeks; her hands, too, lay inert at her sides.

 

彼女の胸を身体に感じて、アシャーストのなかを戦慄が駆け抜けた。

The touch of her breast sent a shiver thorough him.


P59

「今夜、みんなが眠ったあと、あの大きな林檎の樹の下で会おう。ミーガン……来ると約束してくれ」

  “Come to the big apple-tree to-night, after they’ve gone to bed. Megan―promise!”

 

 彼女がささやき声で答えた。「ええ、お約束します」

She whispered back:  “I promise!”

 

 そして、ミーガンの青ざめた顔に怯え、すべてが怖くなったアシャーストは、彼女から離れて階下へと戻った。

  Then, scared at her white face, scared at everything, he let her go, and went downstairs again.

 

P60

本を取りに部屋にあがったはずなのに、外に出たアシャーストは手ぶらのままだった。

He went out to the green chair as devoid of a book as ever; 

 

彼は緑の椅子に腰掛け、勝利の喜びと後悔を胸に、ただぼんやりと前を見つめていた。そうしているあいだにも、農場の人々は、彼の目のとどくところでもとどかないところでも、働きつづけていた。

and there he sat staring vacantly before him, triumphant and remorseful, while under his nose and behind his back the work of the farm went on.  

 

P62

「見てください、この子の目の青いこと!」ミーガンが言った。

Its eyes are blue!” she  said.

 

ミーガンは足を踏みならし、それから彼を見あげた。

She stamped her foot; then looked p at Ashurst.

 

渡辺訳(旧訳)

P35

そして、ふとした衝動にかられ、彼は両腕をまわして彼女を抱きよせ、その額に口づけした。

And, yielding to a swift impulse, he put his arms round her, pressed het to him, and kissed her forehead. 

 

すると、おお、なんと──彼女は真っ青になって、眼を閉じ、その長い黒い睫毛は青白い頬に蔭をつくった。

Then he was frightened―she went so pale, closing her eyes, so that the long, dark lashes lay on her pale cheeks; 

 

その両手はぐったりと両脇に下がって、彼女の胸の触感はアシャーストの全身を震わせた。

her hands, too, lay inert at her sides. 

The touch of her breast sent a shiver thorough him.

 

 

P43

「ねえ、今晩みんなが寝しずまったら、あの大きな林檎の樹の下に来てね、ミーガン──約束してくれるね!」

  “Come to the big apple-tree to-night, after they’ve gone to bed. Megan―promise!”

 

「ええ、きっと…… 」ミーガンはささやきかえした。

She whispered back:  “I promise!”

 

 と、アシャーストはミーガンの血の気のない顔に驚き、すべてが恐ろしく思われ、彼女をそっと放してふたたび下に降りて行った。

  Then, scared at her white face, scared at everything, he let her go, and went downstairs again.

 

アシャーストはいつものように本も持たずに、緑色の椅子の所へ行って腰を下ろした。

He went out to the green chair as devoid of a book as ever; 

 

そして誇らかな気持と軽い悔いを抱きながらぼんやり前の方に眼をやっていた。その間にもアシャーストのまわりでは畑仕事がどんどん進められていた。

and there he sat staring vacantly before him, triumphant and remorseful, while under his nose and behind his back the work of the farm went on.  

 

P45

「この眼、青いでしょう!」と彼女は言った。

“Tts eyes are blue!” she  said.

 

ミーガンは足を踏み鳴らした。

She stamped her foot; then looked up at Ashurst.

 

 

相良訳(対訳)

P49

彼は急激な衝動に身を任せて、腕を彼女にまわして抱きしめ、額に接吻した。

And, yielding to a swift impulse, he put his arms round her, pressed het to him, and kissed her forehead. 

 

それから彼はぎょっとした。──娘は真青になり、眼を閉じているので、長い黒い睫毛が青ざめた額にかぶさり、両手もまた力なく両脇に垂れているのだ。

Then he was frightened―she went so pale, closing her eyes, so that the long, dark lashes lay on her pale cheeks; her hands, too, lay inert at her sides. 

 

彼女の胸の感触が、彼の全身に戦慄を伝えた。

The touch of her breast sent a shiver thorough him.

 

P61

「今夜、みんなが寝てから、大きな林檎の木のところにおいでよ。ミーガン──約束しておくれよ。」

  “Come to the big apple-tree to-night, after they’ve gone to bed. Megan―promise!”

 

 彼女は囁き返した──「お約束しますわ。」

She whispered back:  “I promise!”

 

 それから、彼女の青ざめた顔をみて不安になり、何もかも不安になって、彼女を放し、再び階下に降りて行った。

  Then, scared at her white face, scared at everything, he let her go, and went downstairs again.

 

彼は、前の通りに本をもたず、庭の緑の椅子のところに行き、そこに、誇らしさと悔恨を同時に感じながら、ぼんやりと前を眺めて坐っていた。

すぐ目の目でも後ろでも、農場の仕事が進行している。

He went out to the green chair as devoid of a book as ever; and there he sat staring vacantly before him, triumphant and remorseful, while under his nose and behind his back the work of the farm went on.  

 

P65

「これ、青い目をしてますわ。」と彼女は言った。

Its eyes are blue!” she  said.

 

彼女はとんとんと足を踏みならした。

She stamped her foot; then looked up at Ashurst.

 

 

以下は試訳です。

 

And, yielding to a swift impulse, he put his arms round her, pressed het to him, and kissed her forehead. 

アシャーストは衝動を抑えきれずに両腕を彼女に回して抱き寄せ、額にキスした。

 

Then he was frightened—she went so pale, closing her eyes, so that the long, dark lashes lay on her pale cheeks; her hands, too, lay inert at her sides. 

ミーガンの様子を見てアシャーストは怖くなった。

顔色は蒼白で、目は閉じて長くて黒い睫毛は透き通るような頬にかかり、両手もまた色を失いだらりと両脇に垂れていた。

 

The touch of her breast sent a shiver thorough him.

柔らかな胸の感触を感じてアシャーストは身を震わせた。

 

  “Come to the big apple-tree to-night, after they’ve gone to bed. Megan—promise!”

「今夜、あの大きなリンゴの木のところに、みんなが寝たら…ミーガン、いいね!」

She whispered back:  “I promise!”

「ええ、…きっと!」とささやきが答えた。

 

  Then, scared at her white face, scared at everything, he let her go, and went downstairs again.

血の気が失せた彼女の顔を見るとアシャーストは急に何もかもが怖くなり、掴んでいた手を放すと階段を下りた。

 

He went out to the green chair as devoid of a book as ever; and there he sat staring vacantly before him, triumphant and remorseful,

いつもはないことだがアシャーストは本も持たずに外に出ると緑の椅子に座り、勝ったという思いと後悔とを感じながらぼんやりと前を眺めた。

 

 while under his nose and behind his back the work of the farm went on.  

そんなアシャーストの思いをよそに周りでは普段通りに農場の仕事が行われていた。

 


 

Its eyes are blue!” she  said.

「この子の目、青いんですよ!」

 

She stamped her foot; then looked up at Ashurst.

彼女は地団駄を踏むとアシャーストを見上げた。


 



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さてこれが映画化されているということは最近知ったのですが、タイトルは変更されていて『サマーストーリー 』になっています。

これでは分かりませんね。




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なぜ変えたのかと思ったら、ストーリーが少し変えられています。

大筋では変わらないのですが、ミーガンが死んでしまう理由やその原因などが変更されています。

なぜなのだろうと思ったのですが、上の引用した部分などが現代の映画では表現が物足りないのであるらしいです。

タイトルが変えられたのは林檎の木が登場しないからでしょう。

撮影した場所にちょうど良い木がなかったのかもしれません。

なので冒頭に引用される詩もなく、アシャーストが詩を作る場面もありません。

 



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ミーガンは原作より活発で積極的で意志が強い女性として描かれています。

 

ミーガン役のイモジェン・スタッブスは出演作は多くないようで、検索してみるとこの作品の他では『十二夜』くらいしか知りません。

 

アシュトン(アシャースト)役のジェイムズ・ウィルビイは上手いですね。

ミーガンのその後を知ったときのあの表情には思わず涙が浮かびます。




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これは LD ですが、DVD化されたものももう廃盤で、どういうわけか Amazon では二万円以上の値がついています。2,500円だったのに。

評価する人が多いのでしょうね。

 

我が家には LD のプレーヤーがありますし、いつもの練習場所でも大画面で観ることができます。

 

 

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Blu-ray もあるにはあるのですが、国内盤はなく北米版なので再生できません。




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もう一回観たくなってしまいました。

 
 
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