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「鳥刺し」って何?:パパゲーノのアリア [好きな歌]

先日パパゲーノのアリアの一つを取り上げましたが、『魔笛』の中には他にもパパゲーノのアリアがあります。
先に出てくるのが「私は鳥刺し」、後に出てくるのが「パ・パ・パ」。いずれも良く知られています。

同じオペラの中ですからエピソードには関連があるわけで、一つの歌だけに注目していると解釈を誤ってしまう可能性があります。


aR0010037.JPG

写真は『魔笛』に関する本としてはしばしば言及される『魔笛 秘教オペラ』(ジャック・シャイエ 高橋英郎/藤井康生 訳 白水社)です。
奥付には 1978年10月20日二刷 と印刷されています。ずいぶん前に古本で入手したように思います。
口絵にはフリーメイスンの徽章を付けたモーツァルトの絵など貴重な資料が数多く収録されています。
読み返してみようと本棚から取り出したのですが、入手した時は読み通していなかった事を思い出しました。


先日取り上げたパパゲーノのアリアに関する箇所を開いてみましたが、興味深い記述がありました。
P.305 からそれに関する記述が始まるのですが、P.306 に次のような譜例が掲載されています。


Score1.JPG

これは民謡の旋律で 「1580年にスカンデッロのコラールのなかで宗教的編曲として現れた」とあります。
民謡の旋律だったのですね。
このほかにも 1782年、1786年にも民謡の旋律としてあるいは歌曲集の中に写し取られた例が見られるそうです。
この本の中であのアリアは「娘っ子か可愛い女房」と訳されています。「可愛い」に相当する単語はないのですが、これは多分コメントでご指摘いただきました "〜chen" のニュアンスを出すための表現だろうと思います。なるほど。

1580年にはまだモーツァルトは生まれていませんし、1782年、1786年も『魔笛』が作曲される前です。

こうした既知の旋律を取り入れる事の狙いについてもこの本の中では説明されていて大変興味深いのですが、ここでは割愛します。


さて「私は鳥刺し」ですが、そもそも「鳥刺し」とは何でしょうか。
鳥を捕まえて売る商売なのだそうです。動物園や図鑑などもないだろう時代には珍しいものは貴重だったはずです。
きれいな声で鳴く鳥、美しい羽根を持った鳥などは珍重されたのかもしれません。

鳥刺しのパパゲーノが登場するとき、このアリアを歌います。
ドイツ語が分からない私の頭ではアリア全部を訳していたら寿命が尽きてしまいますので、既にご紹介しました『最新・オペラ名アリア選集』の海老澤氏の訳を頼ります。
それによりますと
 パパゲーノは国中で知らないものがない腕の良い鳥刺しで、
 鳥を捕まえるように "かわいこちゃん" をたくさん捕まえたいと願っているのさ。
 捕まえたらみんな閉じ込めておいて、
 中でも一番かわいい子を特に大事にしてあげよう。
 大事にしたらその子がその気になって "かあちゃん" になってくれたらいいんだがなぁ。
というような内容です。

現代の世相に照らしますと捕まえて閉じ込めておくなんて穏やかでありませんが、「鳥はいくらでも捕まえられるのにかわいこちゃんはひとりも捕まらない」という事を表現しているのであって、実際に監禁しようとしてるわけではないでしょう。

先日の記事であのアリアのタイトルのいくつかをご紹介しましたが、「〜があれば」と「〜がほしい」ではニュアンスが微妙に異なります。
この歌を受けて既に触れましたアリアがあるわけなので、そのタイトルのニュアンスも「〜があれば」という憧れのようなものというより「〜がほしい」という願望と受け取れるようにも思います。


こちらのアリアに話を戻しますと、海老澤氏は訳の中で一人称 ich を「おれ」と訳されています。
タイトルは「わたし」ですが、「おいら」と訳したものを見たような記憶があります。

この曲の愛聴盤はベーム/ベルリ・フィルでフィーッシャー=ディースカウがパパゲーノを歌った盤ですが、フィッシャー=ディースカウの歌唱は「うますぎる」と言われています。
上手い事が悪いというわけではないのですが、パパゲーノという人物は高尚高潔な人物というよりは野卑で粗野と言った方が近いので、そうしたイメージとかけ離れているというのです。


ところで「ヒェン」で頭に浮かぶのはシューベルトの「糸を紡ぐグレートヒェン」です。
女の子の名前であろう事は見当がつきますが、辞書に当たってみます。
すると Grete (Margarete の短縮形) の愛称、と説明があります。
ほ〜、そうだったのですか。
英語ならマーガレットで、愛称はマギーとなるのでしょう。
"グレートヒェン"。"グレートちゃん" も変ですねえ。英語風に呼ぶなら "マーちゃん" か "グーちゃん" でしょうか。
どちらもしっくりしないので、グレートヒェンと呼ぶほかないのでしょうね。






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コメント 5

ももねこ

 思い出しました、この前の話し、ドイツ語の時間
これは「グレートちゃん」って感じですよ、って教わったからです。
 さて、ピアノのエリゼの為にか、乙女の祈りに当たる曲として、
ギターには「魔笛の主題による変奏曲」っていうのがあります。
ところが、魔笛を全部 聴いても、この主題 出て来ません。
藤元のOp1か2の「どんぐりころころの、、、」も同じような話です。
ペンデレツキの「広島の犠牲者に捧げる哀歌」ほど
呆れる話ではないですが、曲名の付け方って、面白いですね。
 私の誕生日 広島原爆の日 藤元は終戦記念日 8月も暮れます。
by ももねこ (2008-08-19 01:20) 

センニン

なるほどなるほど。

魔笛の主題〜、それはソルのあの曲のことでしょうか?
だとするとそのテーマは 第1幕第17場 の合唱
 「おお、妙なる響き(「なんてすてきな音だろう」)」
だという説が有力のようです。
テーマの部分がそっくりそのままではないので紛らわしいようです。

by センニン (2008-08-19 21:59) 

サンフランシスコ人

昔、クリーヴランド管弦楽団とクリストフ・フォン・ドホナーニの『魔笛』(コンサート形式ではない本当の歌劇)を生で視聴しました....
by サンフランシスコ人 (2016-02-24 08:13) 

センニン

サンフランシスコ人 さん、こんばんは。
生ではなかなか観られませんね。
私はせいぜい DVD ですね。
確か実写の映画もありましたが、賛否が分かれているようです。
by センニン (2016-02-24 20:16) 

サンフランシスコ人

サンフランシスコでは『魔笛』を頻繁に観れます....
by サンフランシスコ人 (2016-02-25 02:04) 

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