先日新大久保の DAC で試奏したのは 1929年製のヘインズです。
オールド・ヘインズと呼ばれる時代のものですね。
総14Kゴールド C足部管付き、カバードキー、オフセット、トンホール:ソルダードという仕様です。

外観で目を引くのはほぼ全身に施されていると言っても良いほどの彫刻です。
彫刻の中でもサックスや昔のトランペットなどに施されていた洋彫と呼ばれる技法によるものです。
日本製の高級機のロゴマークやリッププレートの彫刻のような V字型に溝が刻まれるのは和彫と呼ばれます。

1枚目の写真は同じヘインズの現代の復刻版、以前も試奏した事のあるランパルモデルのキーのクローズアップです。




左が持参した私の FMCフルートマスターズ、中央がオールドヘインズ、右がランパルモデルです。
偶然ですが全てC足部管付きです。








頭部管とリッププレートです。
リッププレートは通常施される手前側ではなくて聴衆側に彫刻があります。






キーの中央にはなぜか桜の花が彫られています。彫刻というよりはプレス加工のようでもあります。




バレル下の部分です。




足部管の先端です。




頭部管の長さが少し長いです。
チューナーで確認するとほぼ A=440Hz でした。

ランパルモデルはランパルのサウンドを思わせる太く豊かな響きですが、オールドフレンチのような甘美な響きとは違いやはり現代の楽器です。
彫刻は華麗ですが、私の FMCフルートマスターズの特注モデルも負けてはいませんしこちらの方がランパルの使っていた金の Louis Lot に近いぞ、と言いたいです。

さて目的の 81歳のこの楽器ですが、お店の Iさんの話によりますと当初はあるお医者さんが注文したものだとか。
この彫刻は当時高級感を演出するものだったのでしょうね。
面白かったのはオリジナルのハードケースです。
今のように楽器を三つの部分に分けて収納するのではなく、組み立てたまま、長いままで収納するようになっているのです。さすがにずいぶん古びていましたが、まだ使える状態ではありました。
しかしこれは珍しいですね。初めて見ました。

ヘインズではまだこの頃はゴールドを作り慣れていなかったらしいとの事で、よく見ますと表面に凹凸が残っていたり、トーンホールの周りにハンダが見えていたりと気になる部分はあります。
特に足部管の1番上のトーンホールとその周辺からキーの座金にかけては大掛かりな修理が行われたかまるで後から煙突を立てたかのような様子で、あまりきれいとは言えません。
しかしふとランパルモデルを見てみますと同じ部分がやはり少しではありますが気になる状態です。
以前試奏した時は全然気が付きませんでした。別の個体でしたが。

そうした点はまあ古い楽器ですし、彫刻も当時の趣味という事である意味では貴重なものでしょう。
この楽器が欲しいかと言われれば、その響きはとても魅力的で音量こそ現代の楽器には敵わないもののまさにこれこそがオールドヘインズなのだと納得できる音質で、フルートの音はこうだったのかと再認識させてくれるもので、手元に置けるものならぜひ置きたいと答えます。

何と言いますか、色気があるんですね。それは現在より金属の純度が高くないための言わば不純物が生み出す響きなのかも知れません。
Louis Lot とも Helmuth Hammig とも違う別の魅力ですね。

問題なのはお値段で、2,960千円です。はあ〜。
ちなみにランパルモデルは本来 6,090千円ですが、訳ありで 4,300千円だそうです。
はあ〜。