音楽界一有名な齋藤さんでしょう。
この名にピンと来ない方でもサイトウ・キネン・オーケストラはご存知ですね?

この本は桐朋学園大学音楽学部附属子供のための音楽教室広島分室で4回行われた講義の録音を文章に起こしたものです。本来はあと何回かの講義が予定されていたそうですが、齋藤氏の健康上の理由で4回迄となりました。最後は宿泊していたホテルで車イスでの講義だったそうです。
講義の対象は上記の音楽教室の先生方です。

価格が高いので Amazon で古本を購入したのですが、読み進むうちに、高いどころかこの価格でこんな貴重な内容を読むことができるなんてとても得難いことであるという思いを強くしました。

日頃、楽譜に書かれたことをどう汲み取ればよいのか、どう演奏すれば聴き手に感動を与えることができるのか、と悩んでいる者にとっては福音のような本です。

例えばクレッシェンドはどういうやり方があってどうすれば効果が上がるのか、別の言い方をするなら、どう演奏すれば聴き手に分かりやすいのか。
付点八分音符 + 16分音符のところは、音価を3:1で演奏してはいけない場合が多い、しかしバッハの場合は、など。

語りを文章に起こしていますので読みやすいのですが、語られている内容が高度なのですらすらと読み進めるというわけにはいきません。
しかし譜例が掲載され、講義の内容の該当の箇所がすぐ分かるようになっていますので理解が深まります。
質疑応答も掲載され、非常に参考になります。
欲を言うならそこで行われた演奏も聴きたいと思うのですが、CD 化でもされない限り無理でしょうね。

桐朋学園大学に通うわけでもなく、子供のための音楽教室に通うわけでもないのにこのような教えを読むことができるとはなんと有難いことでしょう。
桐朋学園大学音楽学部ではこのような講義が行われていたのだなと思うと、ここに残されていない内容はどんな素晴らしい内容だったのかと想像すると、居ても立ってもいられないような気持です。

向上心を持たずにただ漫然と読むなら得られるものはないでしょう。
アマチュアであっても、良い演奏をしたいと思う人には必読の本です。

なぜ広島教室なのか、子供のための音楽教室がどのように始まったか、という経緯も紹介されています。