ファム・ファタール(Femme fatale 運命の女、宿命の女、魔性の女)の代表のような人物で中野さんの本にも登場するサロメですが、よく知られたワイルドの戯曲と R.シュトラウスのオペラはおおもとの新約聖書の内容とはかなり異なっています。


 


Wikipedia によれば聖書に登場するサロメ(名前は書かれていない)は次のように描かれています。


 


『マタイによる福音書』


そのころ、領主ヘロデはイエスのうわさを聞いて、家来に言った、「あれはバプテスマのヨハネ(管理者注:洗礼者ヨハネ。イエスに洗礼を施した)だ。死人の中からよみがえったのだ。それで、あのような力が彼のうちに働いているのだ」。


 


というのは、ヘロデは先に、自分の兄弟ピリポの妻ヘロデヤのことで、ヨハネを捕えて縛り、獄に入れていた。すなわち、ヨハネはヘロデに、「その女をめとるのは、よろしくない」と言ったからである。そこでヘロデはヨハネを殺そうと思ったが、群衆を恐れた。彼らがヨハネを預言者と認めていたからである。


 


さてヘロデの誕生日の祝に、ヘロデヤの娘がその席上で舞をまい、ヘロデを喜ばせたので、彼女の願うものは、なんでも与えようと、彼は誓って約束までした。すると彼女は母にそそのかされて、「バプテスマのヨハネの首を盆に載せて、ここに持ってきていただきとうございます」と言った。王は困ったが、いったん誓ったのと、また列座の人たちの手前、それを与えるように命じ、人をつかわして、獄中でヨハネの首を切らせた。その首は盆に載せて運ばれ、少女にわたされ、少女はそれを母のところに持って行った。


 


それから、ヨハネの弟子たちがきて、死体を引き取って葬った。そして、イエスのところに行って報告した。


 


『マルコによる福音書』


さて、イエスの名が知れわたって、ヘロデ王の耳にはいった。ある人々は「バプテスマのヨハネが、死人の中からよみがえってきたのだ。それで、あのような力が彼のうちに働いているのだ」と言い、他の人々は「彼はエリヤだ」と言い、また他の人々は「昔の預言者のような預言者だ」と言った。ところが、ヘロデはこれを聞いて、「わたしが首を切ったあのヨハネがよみがえったのだ」と言った。


 


このヘロデは、自分の兄弟ピリポの妻ヘロデヤをめとったが、そのことで、人をつかわし、ヨハネを捕えて獄につないだ。それは、ヨハネがヘロデに、「兄弟の妻をめとるのは、よろしくない」と言ったからである。そこで、ヘロデヤはヨハネを恨み、彼を殺そうと思っていたが、できないでいた。それはヘロデが、ヨハネは正しくて聖なる人であることを知って、彼を恐れ、彼に保護を加え、またその教を聞いて非常に悩みながらも、なお喜んで聞いていたからである。


 


ところが、よい機会がきた。ヘロデは自分の誕生日の祝に、高官や将校やガリラヤの重立った人たちを招いて宴会を催したが、そこへ、このヘロデヤの娘がはいってきて舞をまい、ヘロデをはじめ列座の人たちを喜ばせた。そこで王はこの少女に「ほしいものはなんでも言いなさい。あなたにあげるから」と言い、さらに「ほしければ、この国の半分でもあげよう」と誓って言った。そこで少女は座をはずして、母に「何をお願いしましょうか」と尋ねると、母は「バプテスマのヨハネの首を」と答えた。するとすぐ、少女は急いで王のところに行って願った、「今すぐに、バプテスマのヨハネの首を盆にのせて、それをいただきとうございます」。王は非常に困ったが、いったん誓ったのと、また列座の人たちの手前、少女の願いを退けることを好まなかった。そこで、王はすぐに衛兵をつかわし、ヨハネの首を持って来るように命じた。衛兵は出て行き、獄中でヨハネの首を切り、盆にのせて持ってきて少女に与え、少女はそれを母にわたした。ヨハネの弟子たちはこのことを聞き、その死体を引き取りにきて、墓に納めた。







ワイルドによるものは以下です。



ユダヤの王エロドは、自分の兄である前王を殺し妃を奪い今の座に就いた。妃の娘である王女サロメに魅せられて、いやらしい目を彼女に向ける。その視線に堪えられなくなったサロメは、宴の席をはずれて、預言者ヨカナーン(洗礼者ヨハネ)が閉じ込められている井戸に向かう。預言者は不吉な言葉を喚き散らして、妃から嫌がられている。預言者との接触は王により禁じられているのだが、サロメは色仕掛けで見張り番であるシリアの青年に禁を破らせて、預言者を見てしまう。そして彼に恋をするのだが、預言者のほうは彼女の忌まわしい生い立ちをなじるばかりである。愛を拒まれたサロメはヨカナーンに口づけすると誓う。


エロドはサロメにしつこくダンスをしろと要求し、何でも好きなものをほうびにとらせると約束する。サロメはこれに応じて7つのヴェールの踊りを踊り、返礼としてエロドにヨカナーンの首を所望する。預言者の力を恐れて断るエロドだが、サロメは聞き入れない。あきらめたエロドはヨカナーンの首をサロメにとらせる。銀の皿にのって運ばれてきたヨカナーンの唇にサロメが口づけし、恋を語る。これを見たエロドはサロメを殺させる。


(Wikipedia)









ワイルドの作品が有名になったのはビアズリーの挿絵に負うところも大きいと思いますが、元々は全てこの作品のために書かれたものではなかったようで、ワルド自身もあまり気に入ってはいなかったそうです。











オペラの DVD は何種類か出ていますが、目に留まったのはマリア・ユーイングのものです。





R.シュトラウス:楽劇「サロメ」全曲 [DVD]



  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント

  • メディア: DVD






ユーイングはベーム盤の『フィガロの結婚』でケルビーノを歌ったのが印象に残っています。


評価の高い盤は他にもあるようですが、ひとまず知っている歌手のものを。


 


なお演出は様々ですが、あまりリアルな生首を出すわけにはいかないと思いますが、ジャケット写真を見る限りでは首斬り役人など、モザイクをかけなければならないような演出もあるようです。


 






このマリア・ユーイングによる盤もそうした場面があるようですが、なぜだろうと思いましたが、ビアズリーの挿絵の影響ではないかと思います。


「7つのヴェールの踊り」は単独で演奏されることもありますが、この場面では一枚づつ脱いでいくらしいです。


まあこの辺は、実演しようとする場合はあまり原作に忠実にとこだわらなくても良いのではないかとは思います。


 





ワイルドのスキャンダル(同性愛)のとばっちりを受けてビアズレーも指弾された(一体視されていた)ため、ワイルドを敵視していたそうです。


ワイルドはビアズレーの才能は買っていてワイルドがシャバに出てからビアズレーに挿絵をまた依頼したものの、ビアズレーは断ったそうです。


 


ビアズレーは25歳で亡くなっています。