ありそうでなかった映像です。
ショパンの心臓が眠るワルシャワの聖十字架教会で行われたショパン生誕 200年、没後 161年の命日に行われた追悼ミサの記録です。
ミサの録音は今までにも何点かはありましたが、映像は初めてではないでしょうか。
モーツァルト:レクイエム,ウィーン・シュテファン大聖堂におけるモーツァルトの命日ミサ典礼ライヴ@ヨッフム/VSO ゼーフリート(S)他
- アーティスト: ヨッフム(オイゲン),ロスマイヤー(リヒャルト),ウィーン交響楽団
- 出版社/メーカー: ポリドール
- 発売日: 1991/12/05
- メディア: CD
演奏は フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮のピリオド楽器オーケストラ "シャンゼリゼ管弦楽団" と合唱団 "コレギウム・ヴォカーレ・ヘント "、"アカデミア・キジアーナ・シエナ"。
ソリストは クリスティーナ・ランドシャーマー(ソプラノ)、インゲボルク・ダンツ(アルト)、ロバート・ゲッチェル(テノール)、マシュー・ブルック(バス・バリトン)。
黒衣に身を包んだ演奏家たち、参列する人たちの姿には視ているこちらも身が引き締まる思いがします。
進行を務めるカジミェシュ司祭の朗々たグレゴリオ聖歌にまず魅入られてしまいます。
歌手として通用する素晴らしい声。
それもそのはず司祭はショパン音楽大学の教授でもいらっしゃるそうです。
連続して演奏されるのではなくミサの中で演奏されるレクイエムを聴くというのは目をみはる体験で、こういう形式で聴かなければ本当にレクイエムを聴いたことにはならないのではないかと思えるほどです。
ヘレヴェッヘの指揮は以前の録音に比べるとテンポが速められているそうですが、確かに付点のリズムなど現代的とも思える処理もあります。
カメラは参列する人たちも映し出し、画面は ヘレヴェッヘ やオーケストラ、合唱団、ソリスト、司祭を進行に応じて頻繁に切り替えて見せます。
厳粛なミサの合間で重い足取りを思わせて始まる “入祭唱”、恐ろしげに激しく始まる “怒りの日”、そしてやがて始まる “涙の日”。
天の光のようでもある、震える弦の響き。
それに続く厚く重なる祈りの声。
思わず頭を垂れて亡き人に想いを馳せます。
人の声にはなんという力があるのでしょう。
ジュスマイヤーの補作部分、特にモーツァルトの指示に基づかないオリジナルの部分はこうして体験するといかにモーツァルトとの違いがあるかはいやでも感じられてしまいます。
モーツァルトの音楽はあまりにも素晴らしい。
映画『アマデウス』でサリエリは「まるで神の声を聞くようだった」と言いましたが、決して誇張ではないと思えます。
人の行いであるミサ、その中に流れるこの音楽はこの世のものでないような神々しさに満ちています。