今日読み終わったばかりですが、この著者のものは初めてでした。


タイトルだけを見ると普段は手が伸びないジャンルなのですが、主人公は東ドイツの音楽大学に留学する学生です。


音楽をうまく文章にしていますが、『蜜蜂と遠雷』より現実味があります。


主人公はピアニストですが、リヒテルの弾く『平均律』が原体験にあります。


ゲヴァントハウス管弦楽団とメンデルスゾーン、バッハの『マタイ受難曲』を始め数々の曲が登場しますが、曲名は正確です。


 


主な登場人物はピアノ科とヴァイオリン科の学生ですが、オルガニスト、チェリストも登場します。


演奏したことのある曲ではラフマニノフの「ヴォカリーズ」が登場します。


ハンガリー出身のヴァイオリンの学生は天才的な演奏をすると描かれていますが、実在のヴァイオリニスト(ハンガリー出身)と同じラカトシュという名前を与えられています。


学生ではありませんがオルガニストも主人公に大いに影響を与える美貌の演奏家として描かれています。


 


『蜜蜂と遠雷』では音楽の描写は実に巧みでしたが、会場の聴衆全員が同じ情景をイメージするなど現実離れとも思えるシーンがありましたが、こちらではもう少し説得力があります。


そもそもチャイコフスキーの『大序曲1812年』のように特定の場面を音によって描いたものでなければ何百人もの人が同じイメージを描くということはあり得ないと思います。


余談ですがあの曲ではフランス軍を「ラ・マルセイエーズ」の旋律で表していますが、ナポレオンの時代にはこの歌は国歌ではありませんでした。


 


ベルリンの壁崩壊で物語は終わりますが、帯にもあるように当時の東ドイツがどういう国家であったか、まるで映画かドラマを観るかのように描かれています。


それだけでなく東の人々の西への憧れ、実際に西に亡命した人の現実がどうであったかも描かれます。


 


作中に登場する、登場人物(故人)の作品の一つがヴァイオリン・ソナタなのですが、ヴァイオリンのカデンツァで始まるとしています。


そういう曲は聴いたことがないのですが、作者は楽器を演奏するわけではないようですがそれにしては描写が的確です。








主人公が飛行機に乗っている時に昭和が終わります。








監視とか密告などは今の時代に生きる私たちには実感がありませんが、戦時中は日本もそれほどではないにしろ特攻という組織が睨みを利かせていたのでしたね。









クラシック音楽に関心のある人には一読の価値があるとお勧めします。