『暗幕のゲルニカ』から『制作』へ [本]
『ジヴェルニーの食卓』が良かったので続いて原田さんの作品を読みました。
9.11 をきっかけに書かれたというこの作品、事件の起こった現代と『ゲルニカ』が制作されたスペイン内乱の時代が交互に描かれます。
『ゲルニカ』を制作するピカソと当時の実在の愛人でそれを撮影した写真家のドラ・マールのエピソードも興味深いです。
架空のスペインの富豪が重要な役割を果たしますが、フィクションがうまく溶け込んでいるのが原田さんの作品の良さです。
とても良い作品なのですが、当時のアメリカとイラクの大統領の名前が架空のものになっている点はちょっと不自然に思えます。ブッシュとフセインで良いのではないでしょうか?
こちらは実際の名称。
こちらも。
それらはまあいいとしても、ちょっと気になったのは「デミタスカップ」という表記です。
「デミタス(demi tasse)」はフランス語で小さなカップのこと。
tasse がカップですね。
なのでそれに「カップ」をつけるのは余計なのです。
言語が混在しますが「デミカップ」という言い方もあります。
『ジヴェルニーの食卓』で印象に残ったのでゾラの作品を初めて買ってみました。
ゾラと言えば『居酒屋』『ナナ』を含む全20巻の「ルゴン・マッカール叢書」が有名ですが、『制作』もその中の一巻です。
翻訳は読みづらくはないのですが、ちょっと古い印象です。
それに肝心の内容が
第14作『制作』(中略)が原因で少年の頃からの親友だったセザンヌと絶交状態になる。
それはセザンヌが、最後には精神を病み、自殺してしまう主人公のモデルとされたからである。(Wikipedia)
という具合で、今だったら売れそうには思えない運びなのです。
自然主義ということでありのままに描くのでしょうが、この一連の作品を概観するとどうも悲観的になってしまうのです。
セザンヌがそのまま登場するわけではありませんが、これは怒るでしょう。
怒ったのはセザンヌだけではなかったようですし。
それでも上巻を読み始めたのですが、停滞しています。
時間がかかりそうです。